東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2016号 判決
主文
一、原判決を取消す。
二、被控訴人は、
(一) 控訴人岩田秀雄に対し金十五万円、
(二) 控訴人大橋啓二に対し金十万九千円、
(三) 控訴人久我幹に対し金十万円
(四) 控訴人株式会社伊那貿易商会に対し金十万七千百十九円、
(五) 控訴人交易食品株式会社に対し金十五万四千三百三十三円、およびこれらの金員に対する昭和三十五年十月三日からそれぞれその支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
(六) 控訴人桑垣繁に対し金百四十一万九百九十九円および内金十三万二千六百六十六円に対する昭和三十五年十月三日からその支払済みに至るまで年六分の、内金百二十七万八千三百三十三円に対する昭和三十五年十月三日からその支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
四、この判決は、控訴人らにおいて仮りに執行することができる。
事実
<全部省略>
理由
按ずるに成立に争のない<省略>を綜合して考察すれば次の事実が認められる。即ち、
(一)、被控訴人の先代内田竜雄は昭和三十三年七月二十日控訴人岩田秀雄にあてて、その主張にかかる金額五十万円の約束手形一通を振出したので、その所持人となった同控訴人はその満期日たる同年十月二十日右手形をその支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたこと並びに同控訴人は同年十二月当時前記内田竜雄に対し、右手形金を含み既に弁済期の到来している合計金百五万円の債権を有していたこと、
(二)、前記内田竜雄は同年八月二日控訴人大橋啓二にあててその主張にかかる金額五十三万円の約束手形一通を振出したので、その所持人となった同控訴人はその満期の翌日たる同年十月二日右手形をその支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたこと並びに同控訴人は同年十二月当時前記内田竜雄に対し、右手形金を含み既に弁済期の到来している合計金七十六万三千円の債権を有していたこと
(三)、前記内田竜雄は同年九月八日控訴人株式会社伊那商会にあてて控訴人久我幹の主張にかかる金額五十万円の約束手形一通を振出したので、右受取人から白地式裏書により右手形の譲渡を受けて所持人となった同控訴人は、その満期の翌日たる同年十二月九月右手形をその支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたこと並びに同控訴人はその頃前記内田竜雄に対し、右手形金を含み既に弁済期の到来している債権として少くとも合計金八十万円を有していたこと、
(四)、前記内田竜雄は控訴人株式会社伊那貿易商会にあてて、その主張のように、
(イ) 同年六月三十日金額三十六万円の約束手形一通を、
(ロ) 同年七月二十二日金額十七万八千円の約束手形一通を
それぞれ振出したので、その所持人となった同控訴人は右(イ)の手形をその満期の翌日たる同年十月一日に、右(ロ)の手形をその満期日たる同月二十二日に、いずれもその支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたこと並びに同控訴人は同年十二月当時前記内田竜雄に対し、右(イ)、(ロ)の手形金を含み既に弁済期の到来している合計金七十四万九千九百十三円の債権を有していたこと、
(五)、前記内田竜雄は同年七月十五日控訴人交易食品株式会社にあててその主張にかかる金額五十万円の約束手形一通を振出したので、その所持人となった同控訴人はその満期たる同年十月十六日右手形をその支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたこと並びに同控訴人は同年十二月当時前記内田竜雄に対し、右手形金を含み既に弁済期の到来している合計金九十二万六千円の債権を有していたこと、
(六)、前記内田竜雄は、
(A) 同年八月七日控訴人株式会社伊那貿易商会にあてて控訴人桑垣繁の主張にかかる(イ)金額三十四万二千円および(ロ)金額十五万六千円の約束手形二通を振出したので、右受取人から白地式裏書により譲渡を受けて右手形二通の所持人となった同控訴人はいずれもその満期日たる同年十一月七日右手形二通をその支払場所に呈示したが、その支払を拒絶されたこと、
(B) 控訴人桑垣繁は同記内田竜雄に対し、同控訴人の主張するように、同年七月一日頃から同年九月上旬までの間九回にわたり合計金三百八十三万五千円を弁済期同年九月二十八日から同年十二月五日までの約定で貸付け、前記内田竜雄から仁星堂こと金子明弘等の振出した右貸付金に対応する約束手形九通(甲第六号証の三ないし十一)の裏書を受けたこと
並びに同控訴人は同年十二月後記債務弁済に関する契約の成立した当時において前記内田竜雄に対し、右(A)および(B)の債権を含み、既に弁済期の到来している債権として少くとも合計金八百六十七万円を有していたこと、
以上の事実が認められる。<省略>を綜合して考察すれば次の事実が認められる。即ち、
既に説示したとおり前記内田竜雄が支払を停止したため債権者らが善後策を協議したが、右内田竜雄の負債は約金五千六百万円であるのに対し、資産は金二千万円程度であったため、債権者の中から抜け駈けをして右内田竜雄の財産の差押をすることを防止する必要があったところから、右内田竜雄の妻たる被控訴人、事実上の養子たる戸井利興、前記佐竹一吾および被控訴人の実兄たる納達夫らを加えて相談した結果、前記内田竜雄所有の金庫、戸棚、机等事務用品、箪笥、テレビ、座布団等の家財、雨戸畳等の造作からはては庭木、石燈籠等に至るまで(その中には被控訴人の個有財産たる姫鏡台一個および養女キヌ枝所有の人形ケース一個なども含まれている。)これらの物件を使用人加藤恒明に売却したものとして、更らに同人からこれを前記有限会社内田辛子製造場に賃貸したように仮装し、昭和三十三年十一月八日付でその旨の公正証書を作成したが、これらの物件(前記姫鏡台、人形ケースを除く。)は当然前記内田竜雄の相続財産を構成するものであるから、横浜家庭裁判所に対する前記限定承認の申述をするにあたっては、これをその財産目録に掲げなければならないのに、被控訴人は右事実を知りながら該目録に「足袋二足、シャツ四枚、下帯七本」といった殆ど無価値に等しい物までも列挙して、いかにも相続財産に属するものは一切合財申告したかのようになし置いた上、右仮装譲渡にかかる内田竜雄所有物件だけはあえて隠秘し、前記家庭裁判所に提出した限定承認の申述書添付の財産目録にこれを記載せず、そして家庭裁判所調査官の調査に当っては自身応待して積極財産としては右申告書添付目録のとおりであると述べていることが認められる。原審並びに当審証人戸井利興および原審証人加藤恒明の各証言中右認定にそわない部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。而して右認定の事実は民法第九百二十一条第三号にいう相続人が悪意で相続財産の一部を財産目録中に記載しなかったときに該当するものというべきであるから、被控訴人は前記限定承認の申述にかかわらず、同条項により単純承認をしたものとみなすべきである。従って被控訴人の限定承認に関する主張は理由がない。
而して、前記佐竹一吾が前記引受債務の履行として、
(一)、控訴人岩田秀雄に対して金七万五千円、
(二)、控訴人大橋啓二に対して金五万四千五百円、
(三)、控訴人久我幹に対して金十万円、
(四)、控訴人株式会社伊那貿易商会に対して金五万三千六百円(手形の満期日の関係から(イ)の手形金三十六万円の弁済に法定充当されるべきものである。)
(五)、控訴人桑垣繁に対して前記(A)の手形金のうち十万円
を支払ったことは控訴人らの認めるところであって、右控訴人らの前記内田竜雄に対する債権は右の限度において消滅したものというべきであるから、相続により前記内田竜雄の債務の三分の一を承継した被控訴人は、
(一)、控訴人岩田秀雄に対し、残存債務金四十五万円の三分の一にあたる金十五万円、
(二)、控訴人大橋啓二に対し、残存債務金三十二万七千円の三分の一にあたる金十万九千円、
(三)、控訴人久我幹に対し、残存債務金三十万円の三分の一にあたる金十万円
(四)、控訴人株式会社伊那貿易商会に対し、残存債務金三十二万一千三百五十七円の三分の一にあたる金十万七千百十九円、
(五)、控訴人交易食品株式会社に対し、残存債務金四十六万三千円の三分の一にあたる金十五万四千三百三十三円、およびこれらの金員に対し、本件訴状送達の翌日たること記録上明白な昭和三十五年十月三日からその支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務あるとともに、
(六)、控訴人桑垣繁に対しては、
(A) 残存手形債務金三十九万八千円の三分の一にあたる金十三万二千六百六十六円およびこれに対する前記昭和三十五年十月三日からその支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による金員並びに
(B) 残存貸付金三百八十三万五千円の三分の一にあたる金百二十七万八千三百三十三円およびこれに対する前記昭和三十五年十月三日からその支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務あることが明らかである。
果して然らば控訴人らの本件請求は、すべて正当として認容すべく、<以下省略>。